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2014年9月 1日弁護士 民谷 渉

障害者権利条約の批准と今後

 今年1月20日、日本において、障害者の権利に関する条約(障害者権利条約)が批准されました。ニュースなどで、既にご存じの方も多いと思います。

 条約とは、国と国との約束事です。障害者権利条約は、国連で定められている条約の中でも、人種、女性などと並んで、人権条約という位置づけをされています。

 障害者権利条約は、2001年の年末にメキシコの大統領が国連総会で提案をしてから、特別委員会で審議され、約5年かかって、2006年12月の国連総会で全会一致で採択されました。その議論の中で、何度も言われた言葉が、「私たちのことを私たち抜きに決めないで」(Nothing About Us Without Us)という言葉です。この言葉は、我が国における障害者運動でも、いつでも、運動のよりどころ、出発点となってきました。
 この言葉をもとに、政府機関だけではなく、多くの障害関係のNGOも、障害者権利条約の論議に参加するため、国連に出かけました。その結果、社会的障壁を重視した考え方である社会モデルに基づいた障害の定義、合理的配慮義務など多くの先進的な内容を盛り込んだ条約となりました。

 ただ、条約は、国の代表者が国連で署名しただけでは、その国が締約国になるわけではありません。国内でも効力を持つためには、批准という手続をする必要があります。
 日本では、2007年9月28日に外務大臣が国連で署名したものの、条約の実施に必要な国内法の整備に時間がかかったため、批准は2014年1月になりました。日本は141番目の締約国となりました。

 障害者権利条約は、障害者の人権や基本的自由の享有を確保し、障害者の固有の尊厳の尊重を促進するため、

    ①障害に基づくあらゆる差別の禁止
    ②障害者が社会に参加し、インクルーシブな社会(包容された社会)を促進すること
    ③条約の実施を監視するためのモニタリング(監視機関)の設置

など様々なことを定めています。権利条約の内容はどれも大変重要なものばかりですが、差別禁止の関係で言えば、不利益取扱いだけでなく、「合理的配慮」の不提供も差別とされたことは大変重要です。
 例えば、建物の入口に存在する段差を解消するためにスロープを設置して、車いす利用者が建物に入ることができるようにすることなどが合理的配慮の例です。

 障害者権利条約が批准された今日における次の課題は、以下のとおりです。

1 権利条約を批准したからといって、権利条約が求めているレベルが直ちに実現するわけではありません。権利条約の内容を一人一人の市民や社会全体に知ってもらうことが重要です。
 そして、国も自治体も社会も、権利条約の目的や趣旨を尊重した制度や社会の仕組みを作ることが必要です。

2 障害者権利条約批准のために、障害者基本法を改正し、障害者虐待防止法、障害者総合支援法、障害者差別解消法を制定し、さらには障害者雇用促進法を改正しました。
 しかし、それらの立法や改正は、残念ながら、条約が求めている水準に達していない部分も多いと言わざるをえません。
 そこで、権利条約の水準に見合うような内容に引き上げていくための更なる見直しが必要です。

3 権利条約では、国連に、障害者の権利に関する委員会を作ることを定めています。そして、締約国は、権利条約に基づいた実施内容を定期的にその委員会に報告しなければいけません。実施内容が不十分であれば、委員会から日本国に対して、改善を求める勧告などがされます。
 市民や障害者団体は、国に対し、日本の実情を正しく委員会に報告すべきことを要請するとともに、自らもNGOとして、直接委員会に報告していくことが必要です。

4 全国の都道府県や自治体で障害者の差別禁止に関する条例が制定されたり、その準備が進められています。そうした条例の制定を実現し、地方においても、権利条約に実効性を持たせる土台を作っていくことが必要です。条例の制定過程に障害者団体が参加することも重要です。

 このように、障害者権利条約を、日本社会において定着させるためには、まだまだ行うことがたくさんありますし、私たちの意識も変えていかなければなりません。権利条約は障害者をも含めた、誰もが尊厳を持って当たり前の生活が送れる、共生社会を目指しています。そんな社会になるよう、私たち全員が、意識を変えていく必要があるのではないでしょうか。