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2014年1月20日弁護士 大胡田 誠

障害者差別解消法で社会は変わる?

1 日本と海外の心のバリアの違い

 海外を旅行すると、日本の公共施設などのバリアフリーは、世界的に見てもとても進んでいるのだということに改めて気付かされます。

 例えば、これまで私が旅行したどの国の都市においても、街中で音響式信号機や点字ブロックなど、視覚障がい者の歩行を助けるための設備は、米国西海岸などのごく一部の例外を除いて、ほとんどと言ってよいほど見当たりませんでした。数年前に聞いた話では、驚くべきことに、ニューヨーク市には、音響式信号機は全市でわずか25ヵ所しかないということでした。

 このような街では、視覚障がい者が1人で外出するのはさぞや大変だろうなと思う一方で、海外ではよく、人々の「心のバリア」の低さに驚かされることもあります。

 以前、私はグアムでスカイダイビングをやったことがあるのですが、「全盲の視覚障がい者でもできるだろうか」と内心ドキドキしながら受付で申し込みをすると、「ノープロブレム! 障がいのある人もみんな飛んでるよ」という陽気な返事が返ってきました。障がい者だって「危険な遊び」くらいするさ、といった調子です。

 ところが、日本では、この「心のバリア」によく悩まされます。
「安全確保ができない」
という理由で学生寮への入居を断られたこともありましたし、盲導犬を使用している妻とコーヒーショップに入ろうとしたところ、「盲導犬であっても、犬を連れてご入店いただくことはできません」と言われて、コーヒーの代わりに「苦い涙」を飲まされるなんてこともありました。

2 障害者差別解消法の内容

(1)「みんなちがって、みんないい」

 2013年6月、このような障がい者の生活を変えることになるかもしれない重要な法律が成立しました。それは、
「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」、略称「障害者差別解消法」
です。

 障害者差別解消法第1条には、「障害を理由とする差別の解消を推進することによって、(中略)全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資すること」とされています。

 法律の文言というのは、往々にして分かりづらいものばかりなのですが、障害者差別解消法のこの第1条は、「すずと、小鳥と、それからわたし、みんなちがって、みんないい」という、金子みすゞのあの有名な詩を彷彿させるような、なんだか胸の奥が暖かくなる、なかなかの名文だと思います。

(2)不当な差別的取扱いの禁止

 では、どのような方法によって差別を解消していくのかというと、大きな柱が2つ示されています。

 その1つは、行政機関や民間事業者を対象とし
「障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすること」を禁止することです(7条1項、8条1項)。

 もっとも、差別解消法では「不当な差別的取扱い」ということが具体的にどういうことかは示されていません。

 この点については、政府は、不当な差別的取扱いの具体的事例や合理的配慮の好事例をガイドラインで示す予定です。

(3)合理的配慮の提供

 差別を解消するための措置のもう1つの柱は、行政機関や民間事業者に対して、障害者に対し合理的配慮を行なわなければならないと定めていることです(7条2項、8条2項)。

 生活上の様々な場面で、障がい者が障がいがない人と平等に社会参加するため、手助け、設備の改良、補助手段の提供、ルールの変更などを求めた場合、行政機関や民間事業者は、過重な負担がない範囲でこれに応じなければならないということが定められたのです。

 例えば、車いす利用者がエレベーターのない2階建ての店に行った場合、2階の商品を見るために可能であれば店員が2階に案内する、それが難しい場合は2階の商品を1階に持ってくる、といったことや、レストランで視覚障がい者のため点字のメニューを用意する、あるいはメニューを読み上げるなどといったことがこの合理的配慮の一例です。

(4)差別されてしまった場合の救済方法

 上で述べたように、法が、障がい者に対する「不当な差別的取扱い」を禁止し、合理的配慮の提供を義務付けたとしても、直ちに日本から差別がなくなるというわけにはいかないでしょう。

 これを救済する方法として、まずは、行政機関等の相談窓口が相談を受け、問題解決の手助けをする仕組みが定められています(14条)。さらに、必要に応じて、国の出先機関や地方自治体が連携して作る「障害者差別解消支援地域協議会」で検討し、その地域全体で差別をなくしていくためのより広範な取り組みを行なうことが想定されています(17条)。

3 頑張ります!

 子どもの頃、友人と砂山の両端から穴を掘り始め、2人で小さなトンネルを貫通させるという遊びをしたことがあります。

 障害者差別禁止法ができただけで、すぐに社会が変わるということはありません。しかし今、対話という方法で、障がい者、障がいがない人双方から、社会に存在する様々なバリアに穴を掘るための道具ができたことは間違いありません。

 最初のうちはいろいろな摩擦があるでしょう。でも、きっとトンネルの向こうにはこれまで見たことのない新たな地平が開けているはずです。

 障がい者の皆さん、まずは、あきらめず、必要な配慮を求めることが始まりです。勇気を出して一歩を踏み出してみましょう。

 障がいがない皆さんは、障がい者からのこのような求めに対して、これを無視したり、むげにしたりするのではなく、建設的な「対話」を通じて、お互いにとってベストな解決を探さなければいけない、それが今回、法律によって義務付けられたのだということを知ってください。

 

 いつかそれぞれの小さなトンネルが繋がって、この世の中からすべてのバリアがなくなり、障害者差別解消法が不要になる日が来ることを願い、私も活動していきたいと思います。